大判例

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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)6476号 判決

京都市下京区西堀川通四条下る四条堀川町二六七番地

原告

八木漁網株式会社

右代表者代表取締役

八木幸男

右訴訟代理人弁護士

平野静雄

右輔佐人弁理士

志村正和

東京都葛飾区白鳥四丁目一七番三〇号

被告

共立金属株式会社

右代表者代表取締役

下田忠重

長野県埴科郡戸倉町大字戸倉三〇五五番地

被告

株式会社八光エンジニアリング

右代表者代表取締役

坂原良一

神戸市兵庫区塚本通六丁目一番二五号

被告

株式会社アケサワ

右代表者代表取締役

明沢晴光

高知市上町二丁目九番三五号

被告

株式会社伊與木漁網店

右代表者代表取締役

伊与木栄一

千葉市稲毛区稲毛東三丁目八番二二号

被告

有限会社佐藤金属工業

右代表者代表取締役

佐藤忠作

右五名訴訟代理人弁護士

田島弘

右輔佐人弁理士

竹内裕

東京都葛飾区白鳥四丁目一七番三〇号共立金属株式会社内

被告

山本敏彦

同所

被告

山本君子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告株式会社八光エンジニアリング(以下「被告八光エンジニアリング」という。)、被告株式会社アケサワ(以下「被告アケサワ」という。)、被告山本敏彦及び被告山本君子は、連帯して、金五〇八万円及びこれに対する昭和六一年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告八光エンジニアリング、被告アケサワ、被告共立金属株式会社(以下「被告共立金属」という。)、被告山本敏彦及び被告山本君子は、連帯して、金三〇五三万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告八光エンジニアリング、被告アケサワ及び被告株式会社伊與木漁網店(以下「被告伊與木漁網店」という。)は、連帯して、金一〇八九万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告八光エンジニアリング、被告アケサワ及び被告有限会社佐藤金属工業(以下「被告佐藤金属工業」という。)は、連帯して、金一〇八九万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

6  仮執行宣言。

二  被告ら

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という。)を有していたが、平成三年四月一七日、その存続期間が満了した。

特許番号 第八三七六五七号

発明の名称 連結鋳鎖製造装置

出願日 昭和四七年七月五日

出願公告日 昭和五一年四月一七日

登録日 昭和五一年一二月一五日

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄第1項記載のとおりである。

3  本件発明の構成要件は、分説すると次のとおりである。

A 事実上、相対的に接合及び離遠の二つの位置をとり得る上型2及び下型3によって形成され、

B 前記上型2には互い相対的に接合及び離遠の二つの位置をとる一対の上型あご部材4、5を配し、

C 前記下型3には互いに相対的に接合及び離遠の二つの位置をとる一対の下型あご部材6、7を配して、

D 該それぞれの上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7のそれぞれの対向した面に半環状溝8を形成し、

E 前記上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7とが完全接合状態にあるとき、前記半環状溝8を有する四つのあご部材により単一の完成環孔鋳型を形成するようにし、

F 前記あご部材の少くとも一つに湯口9を連絡すると共に、

G 前記上型2及び下型3にはそれぞれあご部材の接合部に鋳造された鎖環を前記環孔鋳型に対して直交する関係で挿通を許容する窓孔11、12を形成したことを特徴とする連結鋳鎖製造装置

4(一)  被告八光エンジニアリングは、業として、昭和四九年頃から、別紙目録(一)記載の装置(以下「イ号装置」という。)を機構の一部に組み込んだ連結鋳鎖の製造装置(以下「被告製品」という。)を製造、販売、修理等している。

(二)  被告アケサワは、業として、昭和四九年頃から、被告製品を販売し、近時には、被告製品を製造、販売、修理等している。

(三)  被告共立金属、被告伊與木漁網店及び被告佐藤金属工業は、業として、被告製品を使用して連結鋳鎖を製造、販売している。

(四)  被告山本敏彦及び被告山本君子は、訴外株式会社ヤマトシ漁網(以下「ヤマトシ漁網」という。)の代表取締役及び取締役の地位にあったが、同社は、昭和六一年二月に倒産するまで被告製品を使用して連結鋳鎖を製造、販売していたもので、昭和六一年八月以後、被告山本両名は、被告共立金属に対して、被告製品の使用方法について技術指導をしている。

5  イ号装置の構成を本件発明の構成要件に対応させて分説すると、次のとおりである。

a 湯槽(別紙目録(一)には図示していない。)の前面に金型左半分と金型右半分とが後面を接して左右に摺動できるように配置されている(別紙目録(一)第5図)。

b 金型左半分を形成するリング後型7、金型左半分のリング前上型8、金型左半分のリング前下型9が、それぞれ往復動するように配置されている(同第5図)。

c 金型右半分を形成するリング後型7’、リング前上型8’、リング前下型9’が、それぞれ往復動するように配置されている(同第5図)。

d 金型左半分、金型右半分のそれぞれの対向面を形成する左右のリング後型7、7’の面には半円弧状の凹溝d、dが形成され、左右のリング前上型8、8’、リング前下型9、9’とのそれぞれの対向面には、半円弧状の凹溝d、dにつながる四分の一円弧状の凹溝e、eとh、hが形成されている(同第5図)。

e 金型左半分、金型右半分を形成する左右のリング後型7、7’、リング前上型8、8’、リング前下型9、9’の各対向面が完全に接合する状態のとき、前記一対の半円弧状の凹溝d、d、二対の四分の一円弧状の凹溝e、eとh、hによりリング成型用キャビティ27を形成した金型となる(同第11、12図)。

f 金型左半分、金型右半分のリング後型7、7’には湯口5、5’を連通してある(同第11、12図)。

g 金型左半分、金型右半分を完全接合したとき、金型左半分、金型右半分の合体によって鋳型内にできるリング成型用キャビティ27に対して、これを直交してくぐるリング係止用切欠部9v、9v’が左右のリング前下型9、9’のリング係止用切欠部9v、9v’の合体個所にできる(同第10図)。

h 以上の構成を有する連結鋳鎖製造装置である。

6(一)  イ号装置の構成aは本件発明の構成要件Aを、イ号装置の構成bは本件発明の構成要件Bを、イ号装置の構成cは本件発明の構成要件Cを、イ号装置の構成dは本件発明の構成要件Dを、イ号装置の構成eは本件発明の構成要件Eを、イ号装置の構成fは本件発明の構成要件Fを、イ号装置の構成g及びhは本件発明の構成要件Gをそれぞれ充足するから、イ号装置は、本件発明の技術的範囲に属する。

(二)  本件明細書の実施例に記載された鋳型は、鎖環を鋳型の内において水平な状態で鋳造し、連結鎖環を作るために、把持機構をもって、あらかじめ前に鋳造された鎖環を窓孔に直立状態で位置させ、その中空部に後から鋳造される鎖環がこれに直交してくぐって鋳造され、これが連結鋳鎖となるように位置させ、鎖環を窓孔から取り外すために、鋳型の下型が上下に動き、下型を構成するあご部材が左右に移動するという構成のものであるが、本件発明における上型、下型及び右両型のあご部材の動きは、本件明細書の実施例あるいは本件発明の特許出願の願書に添付された図面に限定されるものではない。

特許請求の範囲に記載された技術的思想は、明細書に実施例として記載されたものに限定されるものではなく、技術的思想の範囲内であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、幾通りもの実施態様の構成が可能である。

別紙目録(二)記載の本件発明の鋳型実施態様図第1図ないし第5図に示す左上あご部材7、左下あご部材9、右上あご部材7’、右下あご部材9’の動作(以下「本件実施態様」という。)は、幾通りも考えられる本件発明の実施態様の構成中、イ号装置の構成に近似しているが本件明細書に記載されていない他の実施例の一つを取り上げ、本件発明とイ号装置との対比をより明確にしたものである。

すなわち、本件実施態様は、本件発明の上型と下型を本件公報二頁4欄二二行から二九行までの記載に従って、水平に配した場合でも、特許請求の範囲第一項記載どおりに上型、下型が動き、かつ機能する鋳型となることを示したものである。

本件実施態様は、右のとおり本件発明の技術的思想を具現したものであり、本件発明の技術的範囲に属するところ、本件実施態様とイ号装置とを対比すると、本件発明の上型、下型及び右両型の構成部材であるあご部材と、イ号装置の右型、左型及び右両型の構成部材である後型、前下型、前上型とは、互いに水平方向で接合、離遠の動きをすることにおいて全く同じである。

他方、本件発明とイ号装置とは、鋳型を構成する部材の数が、本件発明では四つであるのに対し、イ号装置では六つであること、鋳型構成部材の接合面に形成された凹溝の形状が、本件発明ではそれぞれ半円形であるのに対し、イ号装置では後型が半円形、前上型及び前下型がそれぞれ四分の一円形である点で差異があるにすぎない。そして、右差異は、両者の同一性に何ら影響を及ぼすものではない。

したがって、イ号装置は、本件発明の技術的範囲に属する。

(三)  仮にイ号装置が本件発明の構成要件の全てを充足していると認められないとしても、イ号装置は、次のとおり本件発明と均等の関係にある。

すなわち、本件発明の技術的範囲に属するものである本件実施態様とイ号装置とは、鋳型を構成する各部材の接合面に鎖環を鋳造するための凹溝を形成し、各部材の接合面を接合離遠する形式の自動機によって連結鎖環を製造する目的を達しようとするものであるという点で両者は解決課題を同じくするものである。

また、本件実施態様とイ号装置とは、鋳型を構成する各部材の集合体である本件発明の上型、下型においても(ただし、上下型を左右に置き換えたもの。)、イ号装置の左型、右型においても、水平かつ左右に対向し、各部材が水平かつ左右に摺動して接合離遠するように配置されている点、鋳型を構成する各部材の接合面に形成した凹溝を集合して集合体接合面に環状溝を形成し、この環状溝を左右から水平に合体接合させて湯道に連続した完成環孔鋳型(リング成形用キャビティ)を形成する点、完成環孔鋳型(リング成形用キャビティ)に湯を注入して鎖環を作り、その鎖環を鋳型から取り外すとき、鋳型を構成する各部材及びその集合体を左右に水平離遠させる点、対向する各部材集合体に一工程前に鋳造された鎖環を、次工程で鋳造される鎖環に対して、該鎖環をくぐって事実上直交する関係で挿通を許容する窓孔が構成されている点で軌を一にしているから、本件実施態様とイ号装置は、課題解決の手段の基本的技術思想を同じくするものである。

そうすると、両者の課題解決に向けられた具体的手段は、右のとおり両者が軌を一にしていると指摘した諸点によってその目的の全てを達成しており、右(二)のとおり鋳型を構成する部材の数、鋳型構成部材の接合面に形成された凹溝の形状に差異があっても、特段の効果の差がないから、右差異は意味のない差異である。

したがって、イ号装置は、本件発明と均等の関係にある。

7  右6のとおりであるから、被告らの前記4の行為は、本件特許権を侵害するものであるところ、被告らは、故意又は過失によって、右行為をした。

8(一)  原告は、被告らの右行為によって、昭和六〇年二月一日から平成三年四月一六日までの間に、対昭和五一年度の売上高との対比で、九億四七四〇万八〇〇〇円の売上減となったところ、右売上減の金額に利益率六・一%を乗じた五七四二万五〇〇〇円が原告の被った損害である。

(二)  ところで、被告八光エンジニアリングは、被告製品二八台を製造し、被告アケサワにこれを販売し、被告アケサワは、遅くとも昭和六〇年二月一日以前に、ヤマトシ漁網に対し被告製品一八台、被告伊與木漁網店に対し被告製品五台、被告佐藤金属工業に対し、被告製品五台を転売し、ヤマトシ漁網は、昭和六一年八月頃、被告共立金属に対し、被告製品一八台を譲渡した。

被告山本敏彦及び被告山本君子は、昭和六〇年二月一日から昭和六一年一月三一日までの間、ヤマトシ漁網の取締役の職務を行うにつき故意又は重大な過失により、被告製品一八台を使用して連結鋳鎖を製造し、これを販売し、原告の本件特許権を侵害した。

被告共立金属、被告山本敏彦及び被告山本君子は、昭和六一年八月一日から平成三年四月一六日までの間、被告製品一八台を使用して連結鋳鎖を製造し、これを販売した。

被告伊與木漁網店は、昭和六〇年二月一日から平成三年四月一六日までの間に、被告製品五台を使用して連結鋳鎖を製造し、これを販売した。

被告佐藤金属工業は、昭和六〇年二月一日から平成三年四月一六日までの間に、被告製品五台を使用して連結鋳鎖を製造し、これを販売した。

(三)  原告の被った右(一)の損害についての被告らの帰責範囲は、被告らの連鎖製造能力に従って、すなわち被告らの所有する被告製品の台数に比例して割り振るのが相当であり、また、被告八光エンジニアリング及び被告アケサワは、全被告製品の製造者ないし販売者として、それぞれ被告製品の所有者と連帯して責任を負うべきである。

そうすると、(1)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ、被告山本敏彦及び被告山本君子は、原告に対し、連帯して損害賠償金五〇八万円を支払うべき義務、(2)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ、被告共立金属、被告山本敏彦及び被告山本君子は、原告に対し、連帯して損害賠償金三〇五三万円を支払うべき義務、(3)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ及び被告伊與木漁網店は、原告に対し、連帯して損害賠償金一〇八九万円を支払うべき義務、(4)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ及び被告佐藤金属工業は、原告に対し、連帯して損害賠償金一〇八九万円を支払うべき義務をそれぞれ負うものである。

9  よって、原告は、(一)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ、被告山本敏彦及び被告山本君子に対し、連帯して損害賠償金五〇八万円及びこれに対する昭和六一年二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、(二)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ、被告共立金属、被告山本敏彦及び被告山本君子に対し、連帯して損害賠償金三〇五三万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、(三)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ及び被告伊與木漁網店に対し、連帯して損害賠償金一〇八九万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、(四)被告八光エンジニアリング、被告アケサワ及び被告佐藤金属工業に対し、連帯して損害賠償金一〇八九万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

(被告山本敏彦及び被告山本君子の認否)

1 請求原因事実は全て否認する。

(その余の被告らの認否)

2 請求の原因1ないし3及び4(一)中、被告八光エンジニアリングがイ号装置を製造、販売していること、同(二)中、被告アケサワがイ号装置を販売してきたこと、同(三)中、被告共立金属、被告伊與木漁網店、被告佐藤金属工業がイ号装置を使用し、連結鋳鎖を製造、販売していることは認める。

3(一) 請求の原因5及び6は否認する。

(二) イ号装置は、本件発明と構成、作用効果が異なっており、したがって、本件発明の技術的範囲に属しない。

(1) イ号装置の構成は、次のとおりである。

a’ 左右に間隔を置いて配設された〈省略〉形状のフレーム26と水平板25とで画定される方形の金型案内通路内に案内されて平行な左右方向のみの摺動を許容されたそれぞれ一対のリング後型7、7’、リング前上型8、8’及びリング前下型9、9’の三対六個の金型から構成され、

b’ 一対のリング後型7、7’の接合面7a、7a’に半円弧状の凹溝dを形成し、

c’ 一対のリング前上型8、8’及びリング前下型9、9’の接合面8a、8a’、9a、9a’にそれぞれ四分の一円弧状の凹溝e、hを形成し、

d’ リング後型7、7’、リング前上型8、8’、リング前下型9、9’が接合されるとき、単一の円形のリング成型用キャビティ27が形成され、

e’ リング後型7、7’の凹溝dに湯道5を連絡し、

f’ リング前下型9、9’には、一工程前に鋳造されたリングRをリング成型用キャビティ27に対して実質上直交する関係で挿通を許容するリング係止用切欠部9v、9v’が形成されており、

g’ リング鋳造後、リング後型7、7’を閉塞状態に維持しつつ、リング前上下型8、8’、9、9’を開放するとき、鋳造されたリングRが後半部分をリング後型7、7’で維持され、前半部分がリング後型7、7’の前方へ突出露出されるようになっている

h’ ことからなるリング自動連鎖装置

(2) イ号装置は、次のとおり本件発明と相違している。

(ア) 本件発明は、上型及び下型の二つの鋳型と、これに配された一対ずつ計四個のあご部材という四つに分割された型からなり、接合する水平面に半環状溝を形成し、大きく開放した窓孔を形成した鋳型形状を有し、四つの鋳型は、上下型が垂直方向に相対的に移動し、あご部材がこれと直交する水平方向に相対的に移動することにより、互いに直交する二方向に移動して型の開閉を行うようになっている。この点こそが公知技術(特公昭四〇-一四三二六号特許公報(乙第四号証))と相違し、本件発明の特徴としている部分であり、本件明細書の発明の詳細な説明の項の「特殊の形状に四分割され、それぞれ独自の動きをもつ鋳型機構」(本件公報一頁2欄二五行から二七行まで)との記載とも一致している。

これに対して、イ号装置は、一対のリング後型、一対のリング前上型、一対のリング前下型の計六個の金型からなり、かつ、三対六個の金型は、金型の開閉のために単に左右方向のみにしか摺動しないように構成されており、本件発明の鋳型のように、左右方向と直交する方向への動きは全くない。

(イ) 本件発明とイ号装置は、形成された環状溝(凹溝)の形状に相違がある。

また、本件発明は、突き落とし棒で鋳造された鎖環を突き落とし、受け台で、これを受けるようになっているのに対し、イ号装置は、リングの前半部分を露出させて、取出機構によって直接把持して金型から取り出し得るようにしている。

(ウ) 本件発明は、窓孔が上型と下型とにまたがって形成されているのに対し、イ号装置は、リング係止用切欠部がリング前下型にまたがって形成されており、窓孔の形成位置が全く異なっている。

(三) 本件発明は、連結鋳鎖を製造するための装置に関するものである。連結鋳鎖を製造する装置は、鋳型機構と把持機構と送り出し機構とを必要とし、本件発明は、かかる三つの機構の一連の装置からなるものであるところ、特許請求の範囲一項は、実質的に鋳型機構のみを特定しているにすぎないから、単に一つの鎖環を鋳造しうるにすぎず、連結鋳鎖製造装置としては、実施不可能であり、未完成の発明といわざるをえない。したがって、本件発明の要旨は、特許請求の範囲一項ないし三項の構成を全て有する連結鋳鎖製造装置にあると見るべきである。

ところで、イ号装置の把持機構では、本件発明の鋳型機構が全く作動せず、連結鋳鎖を製造することができない。したがって、イ号装置は、本件発明の技術的範囲に属しない。

(四) 原告が主張する本件実施態様なるものは、本件発明の明細書に全く記載されていない。そもそも特許発明の技術的範囲は願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであってみれば、明細書には全く記載のない本件実施態様に基づいてイ号装置が本件発明の技術的範囲に属するとする原告の主張はそれ自体特許法七〇条の規定に反したものである。

また、本件実施態様は、本件発明の本質的特徴である上型下型とこれらの型に配されたあご部材の動きを伴ったAないしDの構成要件を、明細書に全く記載のない別異の動きをなす構成に置き換えているもので、本件発明の実施例ということはできない。すなわち、本件発明の構成要件AないしDによれば、上型2および下型3が、互に相対的に接合および離遠すると共に、上型2に配された上型あご部材4、5、下型3に配された下型あご部材6、7も、互いに相対的に接合及び離遠する構成となっている。

更に、本件発明の発明の詳細な説明の実施例について具体的な動きをみても、上型2及び下型3は、垂直方向へ動いて接合及び離遠しているのに対して、上型2に配された上型あご部材4、5、下型3に配された下型あご部材6、7は、これと直交する水平方向へ接合及び離遠している。

本件明細書の「この発明の一実施例においては、その分割された鋳型は上型及び下型として上下に対向するものとして構成されているが、このような構成に限定されるものではなく、たとえば水平方向に対向するものとしても何らさしつかえない。」との記載(本件公報4欄二二行から二七行まで)のとおり、上型及び下型を上下方向ではなく、水平方向に対向させたとしても、その動きは同様である。

ところが、原告が作出した本件実施態様にあっては、左右型が水平方向に動いているのみであって、この左右型に配された左右上下あご部材は、垂直方向への動きをしていない。したがって、本件実施態様は、本件発明の技術的範囲を具現したものとはいえず、原告の右主張は失当である。

また、原告が主張する本件実施態様の鋳型機構は、本件発明の把持機構、送り出し機構と組み合わせてみても、連結鋳鎖を製造することは不可能であり、単に一つの鋳鎖を製造しうるにすぎず、本件発明の鋳型機構とは到底いえないものである。

(五) 原告は、イ号装置は、本件発明と均等の関係にある旨主張する。

しかしながら、イ号装置は、本件発明とは異なった形状に六分割され、本件発明とは異なった動きをする鋳型機構と、本件発明とは異なった構成の挟持体とからなるものであって、両者は、解決課題を別異としている。

イ号装置は、本件発明とは本質的に異なっており、本件発明に代わってイ号装置を用いても連結鎖環を製造することは不可能であり、手段、作用、効果の点において、本質的に同一ということはできない。また、イ号装置のような特有の作動をする鋳型機構を当業者が知っていたものでも、当然知りうべかりしものでもなかったのであり、このことはイ号装置の構造が特許されていることからも明らかである。

したがって、イ号装置が本件発明と均等の関係にあるとはいえない。

4 請求の原因7、8は否認し、同9は争う。

第三  証拠関係

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一  原告と被告山本敏彦及び被告山本君子との間では、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証、甲第二号証及び弁論の全趣旨により請求の原因1ないし3が認められ、原告と被告山本両名以外の被告らとの間では、請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。

請求の原因4(一)中、被告八光エンジニアリングがイ号装置を製造販売していること、同(二)中、被告アケサワがイ号装置を販売してきたこと、同(三)中、被告共立金属、被告伊與木漁網店、被告佐藤金属工業がイ号装置を使用し、連結鋳鎖を製造、販売していることは、原告と被告山本両名以外の被告らとの間では争いがなく、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第八号証、甲第一〇号証、甲第一三号証及び弁論の全趣旨によれば、右の事実及び請求の原因4(四)中、被告山本敏彦がヤマトシ漁網の代表取締役、被告山本君子が同社の取締役の地位にあったこと、ヤマトシ漁網が被告製品を使用して連結鋳鎖を製造、販売していたこと、被告山本両名の現在の住所が被告共立金属内となっていることが認められる。

二  前記甲第二号証によれば、本件発明は、鋳鎖の製造において、特にリング状に鋳造した鎖輪を連結した状態で連続して製造するための一連の装置に係るものであり、特殊の形状に四分割され、それぞれ独自の動きをもつ鋳型機構を備えた鋳鎖製造装置に関するものであること、従来一連の鋳鎖を製造するには、個々に鋳造した単環を一個おきの間隔に並べて置き、その間に鋳型を当てて連結鎖を鋳造するという方法がとられていたが、この従来技術では、単環を製造する工程と、それをそれぞれ連結するための工程という大きな二つの工程をそれぞれ別の装置で行わなければならないという大きな難点をかかえていたことに鑑み、本件発明は、右従来技術の欠点を解消し、更に、連結した鋳鎖を連続製造することができる鋳鎖製造装置を提供しようとするものであること、本件発明によって、従来の二つの装置による二回の工程を、一つの装置による製造工程に変換しうる点、作業能率を大幅に向上させることができるという実用上有益な利点、製作コストが低いなどの経済的利点が提供されることが認められる。

三  請求の原因6について判断する。

かりにイ号装置が原告主張の請求の原因5のとおり本件発明の構成要件に対応させて分説することができ、リング後型7、リング前上型8、リング前下型9を合わせて金型左半分ととらえ、リング後型7’、リング前上型8’、リング前下型9’を合わせて金型右半分ととらえ、金型左半分が本件発明の上型及び下型のいずれかに、金型右半分が本件発明の上型又は下型の残る他方に、それぞれ相当するものということができると仮定しても、イ号装置は本件発明の構成要件BないしEを充足するものとはいえないことは次のとおりである。

1(一)  本件発明においては、上型2には……一対の上型あご部材4、5を配し(構成要件B)、下型3には……一対の下型あご部材6、7を配し(構成要件C)ているものであり、上型は二個の上型あご部材からなり、下型も二個の下型あご部材からなることは明らかである。これに対し、イ号装置では、金型左半分はリング後型7、リング前上型8、リング前下型9の三個の部材からなり、金型右半分はリング後型7’、リング前上型8’、リング前下型

9’の三個の部材からなっているのであり、金型左半分及び金型右半分が本件発明の上型及び下型のいずれかにそれぞれ相当するものとしても、これを構成する部材の数が本件発明の構成要件B及びCと異なるから、本件発明の構成要件B及びCを充足するものではない。

(二)  本件発明においては、それぞれの上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7のそれぞれの対向した面に半環状溝8を形成し(構成要件D)ているものである。これに対し、イ号装置では、金型左半分、金型右半分のそれぞれの対向面を形成する左右のリング後型7、7’の面には半円弧状の凹溝d、dが形成され、左右のリング前上型8、8’、リング前下型9、9’のそれぞれの対向面には、半円弧状の凹溝d、dにつながる四分の一円弧状の凹溝e、eとh、hが形成されているのであり、金型左半分及び金型右半分が本件発明の上型及び下型のいずれかにそれぞれ相当するものとしても、これを構成する部材の数と各部材の対向した面に形成されている凹溝の形状が本件発明の構成要件Dと異なるから、本件発明の構成要件Dを充足するものではない。

(三)  本件発明では、前記上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7とが完全接合状態にあるとき、前記半環状溝8を有する四つのあご部材により単一の完成環孔鋳型を形成するようにし(構成要件E)ているものである。これに対し、イ号装置では、金型左半分、金型右半分を形成する左右のリング後型7、7’、左右のリング前上型8、8’、リング前下型9、9’の各対向面が完全に接合する状態のとき、前記一対の半円弧状の凹溝d、d、二対の四分の一円弧状の凹溝e、eとh、hによりリング成型用キャビティ27を形成するものであり、このリング成型用キャビティは本件発明の完成環孔鋳型に相当するものと認められるところ、リング成型用キャビティを形成する部材の数が六個と本件発明の完成環孔鋳型を形成するあご部材の数と異なり、かつ、各部材の面に形成されている凹溝の形状が異なるから、イ号装置は本件発明の構成要件Eを充足しないものである。

2(一)  本件発明の構成要件A、B、Cにおける「接合及び離遠」の意味について検討するに、右「接合」及び「離遠」の語が技術用語として本件発明の属する技術分野において特別の意味を有していることを認めるに足りる証拠はなく、前記甲第二号証によれば、本件明細書中の発明の詳細な説明の欄その他本件公報中には、本件発明の特許請求の範囲における「接合」及び「離遠」の意味を明確に定義した記載はないことが認められる。

一般用語としての「接合」が「つぎあわすこと」(広辞苑第四版)、「つぎあわせること。つなげあうこと。」(国語大辞典)等の意味を有することは裁判所に顕著であるが、「離遠」の語が一般用語として使用されていることを認めるに足りる証拠はない。しかし、「離遠」の語を構成する「離」の文字が「離れる。ばらばらになる。遠ざかる。ひらく。」(角川書店・漢和中辞典)等の意味を有し、「遠」の文字が「遠い。時間的、空間的に隔たりが多い。とおざける。はなれる。」(角川書店・漢和中辞典)等の意味を有することは裁判所に顕著であり、「離遠」の語を、「つぎあわされていたものが、開き、離れ、遠ざかる。」意味と理解することに不自然な点はない。

(二)  本件発明の構成要件A、B、Cにおける「接合及び離遠」の意味について、本件明細書及び特許願に添付された図面を更に検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、実施例についての説明として「たとえば上あご部材4は機体に対して定位置にあるように配設し、……この上あご部材4に対して、他方の上あご部材5は第1図の図面中に示す矢印A方向の往復動をするように配設されている。また、下型3は上下に摺動する機構からなる上下動台10に一体形成された下あご部材6と、前記上下動台10上にあって、前記下あご部材6に対して、矢印B方向に往復動する下あご部材7とからなる。」(本件公報二頁4欄一行から一一行まで)との記載、「まず退避位置にある三つのあご部材5、6および7が一つの固定あご部材4に対して前進し始める。……前記三つのあご部材5、6および7がそれぞれ前進し、四つのあご部材が接合すると、……」(同三頁5欄三九行から6欄三行まで)との記載、(鎖環の鋳造後)「次いで、下型3が下方へ退避する。この場合一方の下あご部材6は鉛直下方に退避するのに対し、他方の下あご部材7は上下動台10上にあって下方に退避すると共に前記下あご部材6に対して離遠する関係に摺動し、実質上、斜め下方に退避することになる。……上あご部材5は他方の固定上あご部材4に対して離遠した位置にある。」(同三頁6欄一一行から二一行まで)との記載がある。

これらの記載と本件公報中の第1図、第2図を対比すると、右実施例における上型2と下型3の「接合」とは、鎖環の鋳型が形成されるように上型の凹溝と下型の凹溝が合致する位置でつぎあわされた状態を指し、上型2と下型3の「離遠」とは、接合していた上型2と下型3が、その接していた面に垂直の下方に下型3が退避し、上型2と下型3の間が「開き、離れ、遠ざかった」状態を指しているものと解され、同実施例における上型あご部材4と上型あご部材5との「接合」、下型あご部材6と下型あご部材7との「接合」とは、上型又は下型にそれぞれ環状溝を形成する位置でつぎあわされた状態を指し、上型あご部材4と上型あご部材5との「離遠」、下型あご部材6と下型あご部材7との「離遠」とは、接合していた上型あご部材4と上型あご部材5、接合していた下型あご部材6と下型あご部材7が、それぞれその接していた面に垂直の方向に上型あご部材5及び下型あご部材7が退避し、上型あご部材4と上型あご部材5との間、下型あご部材6と下型あご部材7型との間が「開き、離れ、遠ざかった」状態を指しているものと解される。

(三)  更に、本件明細書には実施例の鎖環把持機構19について、「その構成は、対称に形成された一対の鎖環保持部材20で構成される。この鎖環保持部材20は送り出しの際鎖環の通過を許容する範囲内で接合および離遠の二つの位置をとるように配設され、常時は弾力により接合方向に附勢されている。またこの鎖環保持部材20はその接合した状態において鋳造された鎖環15を内接して収納することができる鎖環の外径と……同一の内径の球窩21を形成する。」(本件公報二頁4欄四二行から三頁5欄六行まで)との記載、「送り出し機構が、作り出された鎖環を引き込み、鋳造された鎖環を把持部材の鋳型側に位置させる。この時スプリングの張力で接合状態にある把持部材は、この引き込み動作により、鎖環の最大径部が把持部材の山部23を通過する際、そのスプリングの張力に抗して把持部材を離遠させて一コマ分を送りこみ、ふたたびスプリングの張力により接合し、新たな鎖環を支持する。」(同三頁6欄二一行から二九行まで)との記載がある。

これらの記載と本件公報中の第5図、第6図を対比すると、右実施例における一対の鎖環保持部材20の「接合」とは、球窩21が形成されるように一対の保持部材がつぎあわされた状態を指し、一対の鎖環保持部材20の「離遠」とは、接合していた一対の鎖環保持部材20が、鎖環の最大径部により押し広げられ、一対の鎖環保持部材の間が「開き、離れ、遠ざかった」状態を指しているものと解される。

(四)  本件明細書及び図面中には、本件発明における「離遠」が、接合している部材の接合面において摺動し、ずれることを指すことを認めるに足りる記載はない。

(五)  以上(一)ないし(四)の検討を踏まえて、ひるがえって、本件発明の上型2と下型3との離遠について検討するに、本件発明では、上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7とが完全接合状態にあるとき、半環状溝8を有する四つのあご部材により単一の完成環孔鋳型を形成するようにし、この鋳型により鎖環を鋳造するものであるところ、鎖環を鋳造した後に鋳型から鎖環を取り出す場合を考えれば、上型2と下型3の接合面の間が「開き、離れ、遠ざかる。」ことによれば鎖環を取り出すことはできるが、上型2と下型3の接合面において摺動しずれることによっては鋳型を開けないことは明らかである。したがって、本件発明の上型2と下型3との「離遠」に上型2と下型3の接合面において摺動しずれた状態を含むものとすると、本件発明は鋳型として機能しない場合を含むことになるから、本件発明の上型2と下型3との「離遠」には、上型2と下型3との接合面の間が「開き、離れ、遠ざかった」状態は含まれるが、上型2と下型3の接合面において摺動しずれた状態を含まないものと解するのが相当である。そして、一個の特許請求の範囲の中で使用されている文言は特段の事情のないかぎり同じ意味を有しているものと解されるから、上型あご部材4、5の「離遠」及び下型あご部材6、7の「離遠」も接合面の間が「開き、離れ、遠ざかった」状態は含まれるが、接合面において摺動しずれた状態を含まないものと解するのが相当である。

(六)  イ号装置についてこれをみると、原告の分説によれば、「b 金型左半分を形成するリング後型7、金型左半分のリング前上型8、金型左半分のリング前下型9がそれぞれ往復動するように配置されている(別紙目録(一)第5図)。c 金型右半分を形成するリング後型7’、リング前上型8’、リング前下型9’がそれぞれ往復動するように配置されている(別紙目録(一)第5図)。」とされているが、別紙目録(一)の構造の説明、作用の説明、第3図及び第5図によれば、右にいう「往復動」とは、金型左半分を形成するリング後型7、リング前上型8、リング前下型9がそれぞれ平行な左右方向のみの摺動を許容されていて、相互の接合面において摺動するように往復動すること、及び、金型右半分を形成するリング後型7’、リング前上型8’、リング前下型9’がそれぞれ平行な左右方向のみの摺動を許容されていて、相互の接合面において摺動するように往復動することを意味することは明らかであり、金型左半分を形成するリング後型7、リング前上型8、リング前下型9が互いに相対的に接合及び離遠の二つの位置をとるものとも、金型右半分を形成するリング後型7’、リング前上型8’、リング前下型9’が互いに相対的に接合及び離遠の二つの位置をとるものとも認めら九ない。したがって、この意味においてもイ号装置は本件発明の構成要件B及びCを充足しないものである。

3  原告は、別紙目録(二)の本件実施態様なるものを想定し、本件実施態様は、本件発明の上型と下型を本件公報4欄二五行の記載に従って、水平に配した場合でも、特許請求の範囲第一項記載どおりに上型、下型が動き、かつ機能する鋳型となることを示したものであり、本件発明の技術的思想を具現したものであって、本件発明の技術的範囲に属するところ、本件実施態様とイ号装置とを対比すると、本件発明の上型、下型及び右両型の構成部材であるあご部材と、イ号装置の右型、左型及び右両型の構成部材である後型、前下型、前上型とは、互いに水平方向で接合、離遠の動きをすることにおいて全く同じであり、両者の相違は、鋳型構成部材の数及び鋳型構成部材の接合面に形成された凹溝の形状の相違にすぎず、右相違が両者の同一性に何ら影響を及ぼすものではないから、イ号装置は、本件発明の技術的範囲に属する旨主張する。

しかしながら、原告主張の本件実施態様なるものをみても、本件発明の上型(下型)に相当するものを形成する左上あご部材7と左下あご部材9、本件発明の下型(上型)に相当するものを形成する右上あご部材7’と右下あご部材9’がそれぞれ平行な左右方向のみの摺動を許容されていて、相互の接合面において摺動するように往復動するものであり、前記2(五)に判断した本件発明における離遠に含まれない動きをするもので、本件発明の構成要件BおよびCを充足するものでないから、本件実施態様は本件発明の実施態様とは認められない。したがって、原告の右主張は失当である。

4  また、原告は、本件発明とイ号装置とは、解決課題及び課題解決の手段の基本的技術思想を同じくし、両者の課題解決に向けられた具体的手段が軌を一にしていることによってその目的の全てを達成しており、反面、両者の鋳型構成部材の数及び鋳型構成部材の接合面に形成された凹溝の形状の相違は、特段の効果の差がなく、意味のない相違であるから、イ号装置は、本件発明と均等の関係にある旨主張する。

しかしながら、仮に均等の主張が、特許権侵害訴訟において適用することができる理論であるとしても、前記2の認定判断に照らせば、本件発明とイ号装置とは、課題解決に向けられた具体的手段、構成が相違していることが明らかであり、また、本件発明とイ号装置の金型の数の相違、動作の相違、凹溝の形の相違が意味のない相違とも認められず、更に、本件発明の構成をイ号装置の構成に置換することが当業者にとって容易であるものとも認められないから、イ号装置をもって本件発明と均等であるとする原告の主張は採用できない。

5  その他、以上の認定を覆し、イ号装置が本件発明の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はない。

四  以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 裁判官 櫻林正己)

目録(一)

一 図面の簡単な説明

第1図は金型を装置に取り付けた状態を示し、左半分を実線で右半分を想像線で示す斜視図、第2図は金型全体を左半分を実線で、右半分を想像線で示す斜視図、第3図は金型の中央部分を示す斜視図で若干開いた状態を示し、第4図は金型の背部に設置された湯道金型、湯道金型案内下型及び湯道下固定型の中央部分の斜視図、第5図は理解の便宜のためリング後及び前上下型をそれぞれ実際とは異なる状態で少しずつ開放位置を異ならせて示す斜視図、第6図はリングがリング後型に保持されてリングの前半部分がリング後型から前方へ露出した状態を示す斜視図、第7図はリング前上型を一部開放して鋳造されたリングと先行して鋳造されたリングとの連結状態を示す斜視図、第8図は鋳造されたリングがリング前下型のリング係止用切欠部に係合した状態を示す斜視図、第9図は製造された連結リングの斜視図、第10図はリング係止用切欠部にリングが係入した状態を示す正面図、第11図は第10図A-A’線に沿った縦断側面図、第12図は第10図B-B’線に沿った横断平面図、第13図はリングを挟持して取り出すリング挟持体の斜視図、第14図、第15図は該リング挟持体を支持し所定の作動をもたらす作動機構を示す斜視図、第16図ないし第19図はリングとリング挟持体との連係状態を示す斜視図、第20図はリングの製造工程を示す工程図である。

二 構造の説明

図面を参照して、イ号装置の金型は、左右方向にのみ摺動するそれぞれ一対のリング後型7、7’、リング前上型8、8’及びリング前下型9、9’の三つの金型からなる。

各金型7ないし9、7’ないし9’は、第1図に示すように左右に間隔をおいて配設される〈省略〉形状フレーム26と該〈省略〉形状フレーム26の下面を閉塞する水平板25とで画成される方形の金型案内通路内に保持され、該通路に案内されて各一対のリング後型、リング前上型、リング前下型がそれぞれ平行な左右方向のみの摺動を許容されている。

一対のリング後型7、7’の接合面7a、7a’に、半円弧状の凹溝aが、リング前上下型8、8’、9、9’の各対それぞれの接合面8a、9a、9a’に、四分の一円弧状の凹溝e、hがそれぞれ形成され、三対六つの型7、7’、8、8’、9、9’のそれぞれの接合面が面一のとき、一つの環状溝Kが形成され、また接合されるとき、単一の円形のリング成型用キャビティ27が完成される。リング後型7、7’の背部に湯道金型4が摺動自在に配置され、該湯道金型4は、湯道落下口1を介して一定位置に設定された湯道金型案内下型2と湯道下固定型3上をリング前上型8と共に摺動する。湯道金型4はリング後型7、7’に形成された半円弧状の凹溝dに連絡する湯道5を有しており、前記完成さわたリング成型用キャビティ27に湯を注入することができるようになっている。

リング前下型9、9’には、一工程前に鋳造されたリングRをリング成型用キャビティ27に対して実質上直交する関係で挿通を許容するリング係止用切欠部9v、9v’が形成されており、第3、7、8図に示すようにリング成型用キャビティ27をくぐり抜けて係止する。このように二つのリングR、R’が互いに直交した状態において、リング係止用切欠部9v、9v’に係止したリングRは、第10ないし12図に示すように、リング係止用切欠部9v、9v’内において若干の揺動が可能とされている。

リング後型7、7’を閉塞状態に維持しつつ、リング前上下型8、8’、9、9’を後記のように開放するとき、第6図に示すように鋳造されたリングR’が、後半部分はリング後型7、7’で保持され、前半部分がリング後型7、7’の前方へ突出露出され、この突出露出したリングR’の前半部分に対して第13図に示すリング挟持体Hを第16ないし19図に示すように直接連係させることができるようになっている。

リング挟持体Hは、金型に対して前進、後退、上下動及び反復半回転を可能とした円筒部14と該円筒部14内に拡縮自在に配置された四分の一方形状の四本の爪片P1ないしP4とを有し、爪片P1ないしP4は十字形の空間部C1、C2が貫通して形成されるように集束した構造をなす。爪片円ないしP4はスプリングの張力を受けて常時は十字形の空間部C1、C2の幅が狭くなるように付勢されており、リングが入り込むときスプリングの張力に抗して拡開することができるようにされている。15は円筒部14の外周面に配設されたピニオン歯車であって、該ピニオン歯車と噛合するラック16により、円筒部14を反復して九〇度回転させることができる。第14、15図を参照して、リング挟持体Hは支持台28に装着支持され、該支持台28の運動により、リング挟持体Hは前進、後退、上下動される。なお、29は冷却水を注入するための冷却用パイプである。

三 作用の説明

第20図を参照して、三対六つの金型7、7’、8、8’、9、9’を接合して完成したリング成型用キャビティ27に湯を注入して、リングR’を鋳造する(A、B)。このとき、リング挟持体Hに前半部分を挟持された一工程前のリングRがリング係止用切欠部9v、9v’に係止してリング成型用キャビティ27と直交する状態で位置している。

鋳造後、リング前上型8、8’を左右へ摺動してリング前上型を開放し(C)、リング挟持体Hを若干上動させて一工程前のリングRをリング係止用切欠部9v、9v’から上方へ抜け出させる(D)。その後、リング前下型9、9’を左右へ摺動させてリング前下型を開放し(E)、リング挟持体Hを再び元位置に下降させる(F)。

元位置に下降したリング挟持体Hを前進させて、十字形の空間部C1、C2に一工程前のリングRを押し込むと共に、リング後型7、7’から前方へ突出露出している鋳造されたリングR’の前半部分を十字形の空間部C1、C2に押し込んで挟持し(G、H)、挟持後、リング挟持体Hを元位置より若干後方まで後退させ(I)、次いでリング挟持体Hを九〇度回転させて鋳造されたリングR’を垂直位置から水平位置に転回する(J)。

転回後、リング挟持体Hを若干上動させ(K)、リング後型7、7’及びリング前下型9、9’を閉じる(L)。リング後型7、7’リング前下型9、9’の閉止後、リング挟持体Hを円筒部14の前端が鋳型の前面に当接する直前まで前進させ(M)、次に下降させてリング係止用切欠部9v、9v’内に鋳造されたリングRを係止する(N)。

最後にリング前上型8、8’を閉止する(O)。この最後の状態は最初の工程Aと一致しており、同様の工程を経て更に引き続くリングの鋳造と、該鋳造されたリングを一工程前のリングへの連結とができ、第9図に示すような連結リングを製造することができる。

なお、一工程前のリングが存在しない鋳造の開始時にあっては、第20図の一工程前のリングがない状態で加工が行われる点を除いては前記の加工工程と全く同様に鋳造及びリングの取出しが行われる。

四 符号の説明

1……湯道落下口

2……湯道金型案内下型

3……湯道下固定型

4……湯道金型

5……湯道

7、7’……リング後型

8、8’……リング前上型

9、9’……リング前下型

7a、7a’……リング後型7、7’の接合面

8a、8a’……リング前上型8、8’の接合面

9a、9a’……リング前上型9、9’の接合面

9v、9v’……リング係止用切欠部

14……円筒部

15……ピニオン歯車

16……ラック

25……水平板

26……〈省略〉形状フレーム

27……リング成型用キャビティ

28…支持台

29……冷却用パイプ

d……半円弧状の凹溝

e、h……四分の一円弧状の凹溝

K……環状溝

R……一工程前に鋳造されたリング

R’……鋳造されたリング

H……リング挟持体

P1ないしP4……四分の一方形状の四本の爪片

C1、C2……十字形の空間部

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

第8図

〈省略〉

第9図

〈省略〉

第10図

〈省略〉

第11図

〈省略〉

第12図

〈省略〉

第13図

〈省略〉

第14図

〈省略〉

第15図

〈省略〉

第16図

〈省略〉

第17図

〈省略〉

第18図

〈省略〉

第19図

〈省略〉

第20図

〈省略〉

目録(二)

本件発明の鋳型実施態様図

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

〈51〉Int.Cl2. B 22 D 25/02 B 22 D 9/30 B 22 D 17/26 〈52〉日本分類 11 B 2 11 A 222 11 B 01 〈19〉日本国特許庁 〈11〉特許出願公告

昭51-12289

特許公報 〈44〉公告 昭和51年(1976)4月17日

庁内整理番号 6441-39

発明の数 3

〈54〉連結鋳鎖製造装置

〈21〉特願 昭47-67238

〈22〉出願 昭47(1972)7月5日

公開 昭49-26127

〈43〉昭49(1974)3月8日

〈72〉発明者 中島栄一郎

亀岡市千代川町小川清草8の18

〈71〉出願人 八木漁網株式会社

京都市下京区西堀川通四条下る四条堀川町267

〈74〉代理人 弁理士 新実芳太郎 外1名

〈57〉特許請求の範囲

1 事実上、相対的に接合および離遠の二つの位置をとり得る上型2および下型3によつて形成され、前記上型2には互い相対的に接合および離遠の二つの位置をとる一対の上型あご部材4、5を配し、前記下型3には互いに相対的に接合および離遠の二つの位置をとる一対の下型あご部材6、7を配して、該それぞれの上型あご部材4、5および下型あご部材6、7のそれぞれの対向した面に半環状溝8を形成し、前記上型あご部材4、5および下型あご部材6、7とが完全接合状態にあるとき、前記半環状溝8を有する四つのあご部材により単一の完成環孔鋳型を形成するようにし、前記あご部材の少なくとも一つに湯口9を連絡すると共に、前記上型2および下型3にはそれぞれあご部材の接合部に鋳造された鎖環を前記環孔鋳型に対して事実上直交する関係で挿通を許容する窓孔11、12を形成したことを特徴とする連結鋳鎖製造装置。

2 特許請求の範囲第1項に記載の装置において、鋳造された鎖環を把持する把持機構を、互いに接合および離遠の二つの位置をとり得る一対の鎖環保持部材で構成し、前記一対の鎖環保持部材は、接合状態において鋳造された鎖環を収納しうる鎖環の外径と同一の内径の球窩を形成し、さらに鋳型対向面およびその反対向面にそれぞれ鎖環の外径と同一径の半球状凹曲面の開口を形成し、前記保持部材接合部内部の球窩において鋳造された鎖環を隣接する鎖環が互いに直交関係にあるように保持するようにした連結鋳鎖製造装置。

3 特許請求の範囲第1項に記載の装置において、鋳造された鎖環を把持する把持機構を互いに接合および離遠の二つの位置をとり得る一対の鎖環保持部材で構成し、前記一対の鎖環保持部材は、接合状態において鋳造された鎖環を収納しうる鎖環外径と同一の内径の球窩を形成し、さらに鋳型対向面およびその反対向面にそれぞれ鎖環の外径と同一径の半球状凹曲面の開口を形成し、前記保持部材接合部内部の球窩において鋳造された鎖環を隣接する鎖環が互いに直交関係にあるように保持するようにした鎖環把持機構であつて、さらに鋳造されたそれぞれ隣接交叉し合つた鎖環を実質上直交させて通過させるに適した十字溝を連続形成してなる筒体と、前記筒体を継続的に90°づつ回転させる機構とからなる連結鋳鎖製造装置。

発明の詳細な説明

この発明は鋳鎖の製造において、特にリング状に鋳造した鎖環を連結した状態で連続して製造するための一連の装置に係るものであり、特殊の形状に四分割され、それぞれ独自の動きをもつ鋳型機構と、鋳造された鎖環を取り出し把持する把持機構および送り出し機構とからなる鋳鎖製造装置である。

普通鎖には、鍛接鎖、鋳鎖および電気溶接鎖の三種類がある。それぞれの特徴を有し、その使用の目的に応じて適当に使い分けられている。そのうち、この発明に係る鋳鎖について、従来の技術を記述すると共に、その技術の欠点および改良が要求されている諸点を挙げて検討してみると、従来一連の鋳鎖を製造するには、個々に鋳造した単環を一個おきの間隔に並べて置き、その間に鋳型をあてて連結環を鋳造するという方法がとられている。したがつて、一連の連結環を製造するには、まず単環を製造する工程と、それをそれぞれ連結するための工程という大きな二つの工程をそれぞれ別の装置で行なわなければならないという大きな難点をかかえている。これは二工程を要するため時間的に、あるいはそれに費される労力などの点で、またさらに二つの装置を必要とするため、経済的に、あるいはこれらを設置するための場所の確保が要求されるなどの点から単位生産当りのコストが非常に高いものとされていた。この発明の目的は、上述する従来の二工程による鋳鎖の製造方法から生じる諸欠点を解消することにあり、さらに連結した鋳鎖を連続製造することができるという画期的な発明を提供するにある。

以下、この発明を具体化した実施例について図面を参照して詳細に説明する。まず、その構造を述べると、この発明を構成する基本的な要素は、上型および下型さらにはそれぞれ一対に分割された上型および下型を構成する四つのあご部材からなる鋳型であり、さらに鋳造された鎖環を前記鋳型のあご部材の一部をくぐりぬけてこれに交叉するように把持する把持機構であり、さらに、これらの機構により連結製造された鎖環を送り出す送り出機構である。以下それぞれの機構の構成を説明すると、まずこの発明の主要部をなす鋳型1は、上型2と下型3とにより構成され、前記上型2および下型3は、それぞれ接合および離遠の二つの位置態形をとり得るように分割された上あご部材4、5および下あご部材6、7からなり、この上下あご部材4、5、6および7にはそれぞれ半環状溝8が形成されている。したがつて、上あご部材4と5とがおよび下あご部材6と7とが接合状態において、それぞれ一対の環状溝を形成する。また他方、前記上型2と下型3とは同じく接合および離遠の二つの位置態形をとり得るようになつており、したがつてこの場合それぞれの接合状態においては、前記四つのあご部材4、5、6および7に形成された半環状溝8により環孔鋳型を形成する。さらに、この鋳型を具体化した一実施例について述べると、上型2は一対の上あご部材4、5からなり、下型3は同じく一対の下あご部材6、7からなる。それぞれのあご部材には接合状態で環状になる半環状溝8が形成されている。このうちの少なくとも一つのあご部材、たとえば上あご部材4は機体に対して定位置にあるように配設し、その半環状溝8に対して機体に設けられた湯槽(図示せず)に連絡する湯口9を形成する。この上あご部材4に対して、他方の上あご部材5は第1図の図面中に示す矢印A方向の往復動をするように配設されている。また、下型3は上下に摺動する機構からなる上下動台10に一体形成された下あご部材6と、前記上下動台10上にあつて、前記下あご部材6に対して、矢印B方向に往復動する下あご部材7とからなる。またそれぞれのあご部材には、接合部分で一工程前に鋳造された鎖環を四つのあご部材で形成される環孔鋳型に対して実質上直交する関係で挿通を許容するように窓孔11、12を形成する。この窓孔11、12は、四つのあご部材がそれぞれ接合した状態で前記環孔鋳型の一部分をくぐりぬけた連絡窓孔として形成される。尚、上型および下型の接合状態で環状に囲まれた内部は穿孔などの切欠部13として形成することが望ましい。これは一工程ごとに湯が注入される際、型の加熱を考え、その冷却を早めるのに有効である。この発明の一実施例においては、その分割された鋳型は上型および下型として上下に対向するものとして構成されているが、このような構成に限定されるものではなく、たとえば水平面方向に対向するものとしても何らさしつかえない。ここにいう上型および下型は鋳造の際一般的にいわれる名称であり、何ら位置関係を言い表わしているものではない。次に第3図に基づいて説明すると、この図は上型2を構成する一対の上あご部材4、5を仮想線(二点鎖線)で示し、他を実線で示した斜視図である。特に上型および下型を構成するそれぞれ一対の上、下あご部材の接合状態を示すと共に、一工程前に鋳造された鎖環15と鋳造中にある鎖環14との位置関係および係合関係を示したものである。この図面中18は受け台である。

次いでこの発明のいま一つの要素を構成する鎖環把持機構19は、前記鋳型1に対向してその直後に位置し、鋳造中の鎖環14に対して一工程先に鋳造された鎖環15を実質上直交する状態で位置決め把持する機構である。その構成は、対称に形成された一対の鎖環保持部材20で構成される。この鎖環保持部材20は送り出しの際鎖環の通過を許容する範囲内で接合および離遠の二つの位置をとるように配設され、常時は弾力により接合方向に附されている。またこの鎖環保持部材20はその接舎した状態において鋳造された鎖環15を内接して収納することができる鎖環の外径と同一の内径と同一の内径の球窩21を形成する。さらに鋳型に対向した側の面およびその反対側の面にそれぞれ鎖環の外径と同一径の半球状凹曲面 22が形成されている。したがつて鎖環保持部材の接合状態において、連結鎖環の相交叉する三つの鎖環をそれぞれ三点支持することができ、鋳造中の鎖環14に対して、一工程先に鋳造された鎖環15を一定位置に位置決めすることができる。

次いでさらにこの発明のいま一つの要素を構成する連結鎖環送り出し機構24は、前記鎖環把持機構の鋳型側とは反対側に対向して配置される。この送り出し機構は軸方向に十字溝25が貫通する筒体26に対し、前記鎖環把持機構に対向する端にフランジ27を形成し、そのフランジ27の外周面に一連のラチエツトを構成する歯28を設ける。この歯28に対して29はひき爪であり、30はストツパーである。この場合ラチエツトは前記筒体に形成された十字溝25を継続的に90°づつ回転させるに適した構成であればその機構は図面に示すものに限定されるものではない。

次に、それぞれの機構の相互の関係と、その動作について述べる。まず連結鎖環の製造をこの発明の装置を備えた製造機によつて製造する場合を順を追つて説明するならば、まず装置作動前に少なくとも三以上連結された鎖環を鎖環把持機構に設置し、そのうちの一つを鋳型に対向する側に突出させその約半分(正確には半分以下)を把持した状態で垂直に待機させておく(連続して製造中にあつては、この位置にある鎖環は鋳造中の鎖環に対して、一工程先に鋳造された鎖環である)。この場合待機させておく鎖環は鋳型に対して直交状態に支持されている。勿論この時点ではすでに湯は機体に設けた湯槽内に適温状態で待機している。まず退避位置にある三つのあご部材5、6および7が一つの固定あご部材4に対して前進し始める。前記鎖環把持機構により垂直に保持され待機している鎖環15は四つのあご部材が接合する部分で、固定あご部材4の接合面に位置する。この鎖環15は前記あご部材に形成されている半環状溝8を横切つた位置にある。前記三つのあご部材5、6および7がそれぞれ前進し、四つのあご部材が接合すると、保持部材20に保持されていた鎖環は、それぞれのあご部材に形成された窓孔に挿通された状態になり、環孔鋳型の一部をくぐりぬけて交叉連結された状態になる。この状態で、前記あご部材の少なくとも一つに形成された湯口9から湯が流入し、鎖環が鋳造される。したがつて鋳造された鎖環14は待機していた鎖環15の内径をくぐりぬけて、いわゆる鎖環の無端連結が完成される。次いで、下型3が下方へ退避する、この場合一方の下あご部材6は鉛直下方に退避するのに対し、他方の下あご部材7け上下動台10上にあつて下方に退避すると共に前記下あご部材6に対して離遠する関係に摺動し、実質上、斜め下方に退避することになる。下型か退避し始めた時点で、突き落し棒(図示せず)で鋳造された鎖環を突き落し、送り機構の水平溝の下辺に面一にある受け台18が前進し、鎖環を受ける。この時点では上あご部材5は他方の固定上あご部材4に対して離遠した位置にある。この際送り出し機構が、作り出された鎖環を引き込み、鋳造された鎖環を把持部材の鋳型側に位置させる。この時スプリングの張力で接合状態にある把持部材は、この引き込み動作により、鎖環の最大径部が把持部材の山部23を通過する際、そのスブリノグの張力に抗して把持部材を離遠させて一コマ分を送りこみ、ふたたびスプリングの張力により接合し、新たな鎖環を支持する。したがつて新たに鋳造されて送り込まれた鎖環は把持部材の鋳型側に約半分を突出した状態で把持される。次いでこの状態で鋳造された鎖環を反時計方向に90°回転させる。この回転は把持機構の直後に位置する送り出し機構のラチエツトによつて継続的に行なわれる。一工程の回転が終了すると、鋳造された鎖環はその約半分を把持された状態で垂直に支持され、それぞれの部材の位置は、前記作動始点状態に戻る。さらにこの工程の繰返により、一連の連結鎖環を鋳造することができる。これらの連結鋳造され送り出される鎖環は送り出し機構の筒体に形成された十字溝に沿つて規則正しく相交叉する鎖環は直交状態で支持され送り出される。

以上のようにこの発明の装置は、とりわけ、継目のない連結鎖環を鋳造する装置として従来単環を製造し、さらにその単環を間隔をおいて並べその間に鋳型をあてて連結環を鋳造して一連の鋳鎖としていたものにくらべ、画期的な発明である。この発明を提供することによつて従来の二つの装置による、二回の工程を、一つの装置による製造工程に変換しうる点、作業能率を大幅に向上させることができるという実用上有益な利点を有するほか、製作コストが低いなどの経済的な利点が提供される。

図面の簡単な説明

図面は、この発明を鋳鎖製造機に具体化した一実施例を示すものであり、第1図はこの発明の一主要部をなす鋳型のとりわけ上型の形状を示す下方から見た斜視図、第2図は同じく下型の形状を示す上方から見た斜視図、第3図は上型(仮想線で示す)および下型の相互の関係を示すそれぞれのあご部材が接合状態にある斜視図、第4図aは第3図矢印X方向から見た接合状態にある鋳型の側面図、第4図bは第3図矢印Y方向から見た側面図、第5図は鋳型、鎖環把持部材および送り出し機構の相互の位置関係を一部を断面にして示す側面図、第6図は鎖環把持部材の斜視図、第7図は送り出し機構の特にラチエツト部分を明らかにした側面図である。

1……鋳型、2……上型、3……下型、4、5……上あご部材、6、7……下あご部材、8……半環状溝、9……湯口、11、12……窓孔、14、15、16、17……鎖環、19……鎖環把持機構、20……保持部材、21……球窩、22……半球状凹曲面、24……送り出し機構、25……十字溝。

〈56〉引用文献

特公 昭43-8626

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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第7図

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特許公報

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